宝生能楽堂「鵜澤久の会」でお能「檜垣」を見ました。三老女に数えられる秘曲。僧に水を届ける老女、白拍子であったがゆえに受ける地獄の苦しみ。後撰集「年経ればわが黒髪もしらかはのみつはぐむまで老いにけるかな」から想像を膨らませた構成。みつはぐむとは、水を汲む/三輪組む/瑞歯ぐむの意で、年老いること。夢幻能形式なのに、前も後も老女という設定に驚きました。時代は昔に遡っているのに、檜垣の作り物を通過しても何も時間が経過していないような錯覚に陥ります。
渡辺保『能ナビ』ではこの作品を傑作と絶賛しています。その理由は、「一つは人間の老いの問題を扱って実に鮮明なこと。そしてもう一つは死後の苦しみの描き方」とのこと。この一節が脳裏にあっていつか見なければと思っていたのでした。けれども期待しすぎていたか、意外なほどのそっけなさにうまく受け止められていないのが実情です。
仏教的な詞章をいくつか抜粋。
「朝に紅顔あつて世路に楽しむといへども 夕べには白骨となつて郊原に朽ちぬ 有為の有様 無上の真 たれか生死の 理りを論ぜざる 何時を限る慣らひぞや 老少といつば分別なし 変はるをもつて期とせり たれか必滅を期せざらん たれかはこれを期せざらん」
「われいにしへは舞女の誉れ世に勝れ その罪深きゆゑにより 今も苦しみをみつせがはに 熱鉄の桶を担ひ 猛火のつるべを提げてこの水を汲む その水湯となつてわが身を焼くこと隙もなけれども このほどはお僧の値遇に引かれて つるべはあれども猛火はなし さらば因果の水を汲み その執心をふり捨てて 疾く疾く浮かみ給ふべし」
2017年12月の講演
東京近辺で2017年12月に開かれる講演・講座をメモします。開催日順。詳細は各主催者または会場にお尋ねください。(12/3更新)
- 総合教育研究部文化学部門公開講演会
日時:12/1 16:20
会場:駒澤大学1号館402教場
講師:松尾剛次
演題:葬式仏教の再考 葬式仏教誕生の意義を歴史的に見直す
主催:駒澤大学総合教育研究部文化学部門(詳細)
- 仏教学研究会主催公開講演会
日時:12/4 16:30
会場:駒澤大学深沢キャンパスアカデミーホール
講師:鈴木正崇
演題:仏教と山岳信仰
主催:駒澤大学大学院仏教学研究会
- 仏教カルチャー・セミナー
日時:12/16 13:30
会場:中野サンプラザ研修室
講師:対本宗訓
主催:日本仏教鑽仰会(03-3967-3288)
- 青松護持会講座「仏教歳時記」
日時:12/16 13:30
会場:青松寺観音聖堂
講師:金子真介
主催:青松寺
2017年11月の講演
東京近辺で2017年11月に開かれる講演・講座をメモします。開催日順。詳細は各主催者または会場にお尋ねください。(11/1更新)
- 国際仏教学大学院大学公開講座
日時:11/11 13:30
会場:国際仏教学大学院大学春日講堂
講師:デレアヌ・フ口リン
演題:仏教に於ける業説
主催:国際仏教学大学院大学
- 国際仏教興隆協会文化講座
日時:11/17 18:30
会場:JICA東京セミナールーム
講師:本間光雄
演題:お釈迦様の背中を見つめて 私の仏跡参拝
主催:国際仏教興隆協会
- 仏教カルチャー・セミナー
日時:11/18 13:30
会場:中野サンプラザ研修室
講師:藤田一照
主催:日本仏教鑽仰会(03-3967-3288)
2017年10月の講演
東京近辺で2017年10月に開かれる講演・講座をメモします。開催日順。詳細は各主催者または会場にお尋ねください。(10/1更新)
- 立正大学仏教学部公開講座
日時:10/13 13:30
会場:立正大学石橋湛山記念講堂
講師:高山龍三「釈迦生誕地を詣でた日本人たち」
村上東俊「釈尊誕生の地のいま」
庄司史生「立正大学とネパールの交流について」
主催:立正大学
- 国際仏教学大学院大学公開講座
日時:10/14 13:30
会場:国際仏教学大学院大学春日講堂
講師:斉藤明「観音(観自在)と仏教 梵天勧請・法華経・般若心経」
デレアヌ・フ口リン「梵語仏典写本入門」
落合俊典「漢文仏典写本入門」
主催:国際仏教学大学院大学
- 第55回 禅をきく講演会
日時:10/25 17:30
会場:有楽町よみうりホール
講師:三遊亭圓窓「落語の中の仏教と教育論」
道前慈明「寂室元光禅師の禅風」
主催:臨済会(03-3844-3711)
2017年8月の講演
東京近辺で2017年8月に開かれる講演・講座をメモします。開催日順。詳細は各主催者または会場にお尋ねください。(8/2更新)
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能「小塩」
国立能楽堂で、お能「小塩」を見ました。在原業平が二条后に対する思慕をうたう。「大原や小塩の山も今日こそは神代のことも思ひ出づらめ」の歌が全編に響く。小塩は地名であるとともに、惜しいに掛けてある。老人から青年へまばゆく変化する、しっとりとした舞台。
花がキーワード。春日野の花は桜。季節は春。「散りもせず、咲も残らぬ花盛り」というのが満開の一時をあますところなく表現しています。
歴史的には何のはたらきもない在原業平という人物を現代の我々が知っているのは、伊勢物語や百人一首を通じてなのかと思ってしまいますが、実はこういう舞台が延々と演じられてきた結果なのでしょう。
この舞台は興福寺勧進能の最終回でした。最後の演目に選ばれた「小塩」は、興福寺一乗院で初演したというゆかりの作品とのこと。春日明神も出てきます。全15回のうちどのくらい来れたでしょうか。たくさん勉強させていただきました。