仏報ウォッチリスト

ここは仏教の最新情報、略して《仏報》の材料をとりあえず放りこんでおく倉庫です。

 三井-出光-和光-東博

午後、仕事にかこつけて、展覧会巡りをしてきました。ああ、しあわせ。

特別展が明日開幕、これに先立って催された午後1時からの記者説明会に出席。館長と敦煌研究院長が開催趣旨や見どころを紹介ののち、短時間で内覧。
敦煌経とは中国・敦煌市莫高窟で1900年に発見された古写経のこと。その数5万点。当時これを世界各国からやってきた探検家らが持ち出し、そのうちの112点を三井家が1928年に購入。ところが近年、この敦煌経と呼ばれるものの中にかなりの数の偽物があることが知られてきたため、三井文庫が専門家を交えて本格的に調査、その結果、本物とお墨付きを得た34点を晴れて大々的に公開というわけ(他の78点は?という質問は誰も言い出さなかったなあ)。
経典は随・唐代に写された金剛般若経法華経大般涅槃経維摩詰経ほか。いずれも全くぶれのない端正な楷書で、宮廷に収めたものもあったといいますから、見ていて書き手の緊張が伝わってくる思いさえしました。時おり混じる則天文字がいいアクセントにもなっています。
ってな説明を、これから早急に月刊誌の次号アート欄用の原稿としてまとめなきゃいけません……。

地下鉄で移動し午後3時すぎ着。同館へは掲載写真を借りに行ったついでに、特別展を観覧。出光コレクションといえば真っ先に仙がい(がいは崖の山のない漢字)の禅画、そして陶磁器の数々が思い浮かびますが、いやー屏風から洋画まで豊富にお持ちですねえ。
入場していきなり長谷川等伯「松に鴉・柳に白鷺図屏風」。黒しか使えない水墨画で描く白い鳥、当時から忌み嫌われていたカラスの表現…。もうここでしばし動けなくなりました。そのほか印象的だったのは酒井抱一「十二ヵ月花鳥図」の屏風、池大雅寿老人を中心とした五幅の軸など。
根津美術館サントリー美術館が休館中の今、ここ出光美術館が絶好調です。

歩いて午後4時半着。お目当ては仏伝レリーフ、だったのですけど、截金(きりかね)の美しさに胸を打たれました。じっと目を凝らすと、貼ってある金の幅や間隔が微妙に違うんです。この緻密な表現一つひとつが手作業なんだと感激いたしました。香盒という円い容器を装飾した出品が多いものの、入り口近くにあった「賛華」(こう書いてありました)という作品、縦長の額の上を蓮華の花びらが散ってゆく意匠が素敵でした。
もちろん仏伝レリーフもこの実物を見に行く価値のある力作。平面に近い素材に浮き彫りを施す手法自体は伝統的なものだと思いますが、モチーフの配置が現代的。お坊さんならば絵解きせずにはいられない雰囲気です。
ただ、会場がやや手狭。ご婦人たちが買い物感覚で押し寄せていて、そのおしゃべりの度合いが場違いで閉口しました。

込み合っているのは百も承知、そこで金曜5時過ぎの延長時間狙いです。
会期前半に一度見ていて2回めの来場ですので、勝手知ったる足取りで冒頭のほうは素通り。目指すは後期登場の向源寺十一面観音菩薩立像。うわっ、さすがにすごい人だかり。でも背面はすいてますよ、背面だけはね。
なんとかぐるっと一周してみると、向かって正面やや左寄りの表情が柔和に見えていいかな。
実物を見て初めて気づきましたが、おへそが十字に刻んであるんですよ。ちょうど真正面から見て、その十字をデッサン画の基準線みたいに延ばしてゆくと、左右非対称なのがよくわかる。足腰はもちろん、お顔もずいぶん傾いている。
ところで、パーツごとに見てゆくと、実はけっしてリアルではないのですね。肩にかかる髪の毛の表現はよけいな気がしますし、腕は筒みたいだし、右手は異常に長く(これは三十二相の一つ)、足の甲は妙に短い。なにしろ頭が重過ぎるし、側面から見ると不自然なほど前傾です。にもかかわらず、このまとまり具合が並じゃない。全体をいただいたときのこの調和には、ほおーっと思わず唸ります。像の周りにはそこかしこに放心してしまっている人がいました。
リアルという意味では前期出陳の宝菩提院菩薩半跏像のほうがはるかにリアルな表現で、息を呑む技巧でした。それとはまったく別の風合いながら、同じこの場所で2度目のノックアウトです。
前回から印象深かった別の像が同じこの部屋にいらして、しきりに視線を送ってくる、気がする。見るほどににこやかな正花寺菩薩立像と、でっぷりと頼もしい法隆寺地蔵菩薩立像。時おり両者をふらふらと見に行っては、また中央に引き戻される、その繰り返しを1時間ほどやって、きりがないので意を決して立ち去りました。
博物館を出て駅へ向かっていると、今出てきた方向へ小走りに急ぐネクタイ姿の男性と擦れ違いました。あー、あの仏さまたちに会いに行くのかなと思うとうれしくなりました。