仏報ウォッチリスト

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 「養老」「船弁慶」

国立能楽堂お能「養老」を見ました。今日よく知られた養老の滝伝説はお酒が湧き出しているという話ですが、その古形である世阿弥作の能では、あくまで霊水ということになっています。前半は発見者の親子が天皇の勅使を現地へ案内するくだり。
後半、養老の山神が登場。ここで自身の由来を語るのが筋でしょうが、神だろうが仏だろうが水と波ぐらいの違いでたいしたことないとおっしゃって、まことに大ざっぱ。脇能だからこれでいいらしいです。クライマックスの舞の激しさがまさに神がかっていて驚きました。
「(地謡)治まる御代の、君は船、臣は水、水よく舟を浮かめ浮かめて、臣よく君を仰ぐ御代とて、幾久しさも尽きせじ……」
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引き続き「船弁慶」を見ました。歌舞伎でもおなじみの演目。前半は静御前とのお別れ。静が舞う姿を見て、お能の写真というとよくこのショットが使われるなあと思って見ていました。舞い終わり永遠の別れを予感しつつとぼとぼと去って行く背中が何ともせつない…。
後半は平知盛の怨霊との対決。義経の刀よりも威力があるのが弁慶の数珠もみ。「その時義経すこしも騒がず」は義経自ら言うセリフなのですね。弁慶とその従者も、船頭もみな役割が当てられていて、現代のお芝居に近い展開でわかりやすい。囃子方の迫力も聞きどころです。
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今回の公演は「方丈記800年記念」企画なのだそうです。「養老」は方丈記の冒頭〈行く河の流れは絶えずして…〉を詞章に引用しています。「船弁慶」は、方丈記が描く当時のエピソードの一つということなのでしょう。「下鴨神社の神官鴨長継の子」であり「五十歳にして突如世俗を離れ、出家」した鴨長明は、もともと芸能の世界と相性がいいのかもしれません。