矢来能楽堂の「花乃公案」公演で、お能「熊野(ゆや)」と「恋重荷(こいのおもに)」を見ました。
「熊野」は3回目。在原業平の歌を引くので伊勢物語かと思っていたら、作品のネタ元は平家物語と今回初めて知る。最初に見たときに親か夫かで翻弄される切ない物語に心を打たれたが、さまざまな形式の作品を見てきた今となっては、現在形の進行がやや物足りなく思えます。願いがかなうのが「あら嬉しや尊(とうと)やな。これ(清水の)観音の後利生なり」と理由づけるのは御都合主義すぎやしないでしょうか。
「恋重荷」は初見。タイトルそのままの重荷が作リ物として登場、後見さんが重そうに持ってきてビビりました。話は単純でかなわぬ恋が破れるという骨格で誰にでもわかるのですが、鑑賞教室で取り上げられるような内容ではありません。老いらくの、身分不相応の恋心と、見せしめの公開処刑、恨んで当たり散らし、それでも最後は女を守護すると誓うものの、どこまで信じてよいやら。衝撃の問題作です。
「恋よ恋われ中空(なかぞら)になすな恋、恋には人の死なぬものかは、無慚の者の心やな」
2018年5月の講演
東京近辺で2018年5月に開かれる講演・講座をメモします。開催日順。詳細は各主催者または会場にお尋ねください。(5/1更新)
- 宗教者災害支援連絡会7周年シンポジウム
日時:5/2 14:00
会場:上智大学図書館9階L-921
講師:糸山公照・矢野道代・力久道臣・立野泰博・稲場圭信
テーマ:熊本地震と宗教者 それぞれのむき合い方
主催:上智大学グリーフケア研究所・宗教者災害支援連絡会
- 国際仏教学大学院大学公開研究会
日時:5/12 13:15
会場:国際仏教学大学院大学春日講堂
講師:大竹晋「『大乗起信論成立問題の研究』をめぐって」
後藤康夫「玄奘訳『因明入正理論』の理解について」
主催:国際仏教学大学院大学(詳細)※要申込み
- いのちを見つめる集い
日時:5/24 13:30
会場:新宿区・大龍寺
講師:三嶋浩二
演題:コミュニケーション教育の今 コミュニケーションがもたらすもの
主催:仏教情報センター
- 青松護持会講座「仏教歳時記」
日時:5/26 13:30
会場:青松寺観音聖堂
講師:金子真介
主催:青松寺
2018年4月の講演
お能「高砂」
国立能楽堂でお能「高砂」を見ました。女性能楽師による、と銘打った企画で、シテとツレが女性、でも他は男性で、やはり全員女性というわけにはゆかないようだ。笛と小鼓は女性。
前場は住吉の松を尉、高砂の松を姥に人格化。ウトウトしていたら二人が舞台上に現れていて驚く。あひおいの夫婦ということでおめでたい場面。高砂は上代の万葉集、住吉は当代の古今集という趣向は実感しにくい。「それ草木心なしとは申せども花実の時を違えず 陽春の徳を備へて南枝花初めて開く しかれどもこの松は その景色とこしなへにして花葉時を分かず」。
後シテは住吉の神で、舞は若々しく力強い。「神と君との道直に 都の春に行くべくは それぞ還城楽の舞」。ひたすらめでたい。