仏報ウォッチリスト

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 「景清」を見た

先日、国立能楽堂で「景清(かげきよ)」を見ました。
日向に流された平家の武将景清のもとに、はるばる娘が訪ねてくる。登場人物は親と子、従者と里人。ごく普通の人たちばかりで亡霊や鬼神は出ない。したがってお坊さんも出ない。
それでも仏教色はありまして、詞章をいくつか書き抜きますと、
「とても世を、背くとならば墨にこそ……染むべき袖のあさましや……」(世に背いて暮らすのならば、墨染めの衣を着るべき……なのに麻の俗体のままで……)
「知らぬ迷いのはかなさを、しばし休らう宿もなし」「げに三界は所なし、ただ一空のみ……」(父の居場所がわからない我が身はまるで真理を知らず迷う者のようで、その身を休める所もない。この世に安住できる場所はなく、一切は空……)
それと、結びの地謡「暗き所の燈、悪しき道橋と頼むべし」について、資料では出典の参考として法華経薬王菩薩本事品の一節を挙げています。
景清は悪七兵衛(発音はアクシチビョーエ)とニックネームがある勇者で、お能の主人公には珍しく感情表現が素直。腹を立ててキレたり、思い出話の中で笑ったりします。
それにしても、父娘間の話題がかつての戦場での武勇伝だけというのは何とも寂しい。当の景清も語り終えて「恥ずかしや」とおっしゃいますが、なんだか仕事一筋なオトーサンの典型を見る思いがいたしました。