仏報ウォッチリスト

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 「一休禅師」を見た

国立劇場で12月歌舞伎公演を見ました。
新歌舞伎3作。うち、幕開きの真山青果「頼朝の死」は諸般の事情でパス。熱い台詞劇です、たぶん。
2つ目が気になる舞踊「一休禅師」(後述)。
大切り岡本綺堂修禅寺物語」。面を作る職人(中村吉右衛門)が依頼品の出来にどうも納得ゆかない。自分の未熟さに落ち込んでいたところ、実は面の似顔の主の死相を先取りしていたことがわかり、かえって腕前に自信を強める。とりまく脇役(とりわけ実直な娘婿の市川段四郎)も好演で、芸術家魂という主題が際立ちます。
「一休禅師」は坪内逍遥の作で大正10年初演、昭和12年再演で今回が3回目。どうりで知らないはずです。一休禅師が遊女・地獄太夫と歌を交わしたという逸話(出典は『続一休咄』)をもとにした創作。過去の舞台写真は墨染の衣で髑髏を載せた杖を持っていますが、このたびは明るい衣装で杖もなし。舞台は遊郭の座敷。酔いつぶれ、夢うつつで繰り広げる禅問答。長唄の詞章に禅語がちりばめてあるものの、詮索するほどの内容ではないでしょう。もとより郭の華やかさを見せる趣向。一休(中村富十郎)に寄り添う少女(渡邊愛子ちゃん6歳)が輝いています。
一休さんが登場する浄瑠璃・歌舞伎は古くからあるそうで、公演パンフレットの解説(岡雅彦「一休人気のひみつ」)から書き抜きますと、
 ・『本朝檀特山』1730年
 ・『敵討一休咄』1754年
 ・『三百三十三年忌一休ばなし』1771年
 ・『鶴千歳曽我門松』1865年
など。同解説によると、
〈華やかな舞台芸の歌舞伎は、出版物の読み物よりはるかに話題性に富み、世の中への浸透も大きく強い。元禄の後期に村山平十郎の「一休」が大当たりをとったことも知られている。〉
〈一休人気の秘密を考えるとき、一休の個性に帰着させるのも手だが、その人気を支えた下地は日本人の禅趣味への傾斜であったのではないか。〉
たわいない演目ですが、背景には興味深い歴史が詰まっています。