仏報ウォッチリスト

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 「禅」をほめる

ほめると言ったらほめる。
映画「禅 ZEN」を見ました。道元禅師の生涯を軸に、日本の禅仏教の原点を映像化。これは面白いです。
その1、監修がいい。曹洞宗が惜しみなく協力しているので、安心して見ていられます。道元禅師をめぐる主要なエピソードを網羅しており、宋国の典座とのやりとりや、居眠りした修行仲間が叱責される声で身心脱落したなど、ワンシーンごとに親しみが増してきます。
その2、テンポがいい。五十余年の生涯を丸々盛り込む手際よさ。冒頭の母親との死別から主題をズバリ提示。一方で史実とは別に架空の女性ヒロインを設定し、ドラマを牽引します。前半長く中国語の会話が続くのはたぶん、和訳の字幕を読ませることで、専門用語を文字で伝える工夫なのですね。
その3、潔い割り切り。人知を超えたもの(悟りとか物の怪とか)をCGでサラッと処理したのは優れた判断だと思います。こんな場面作りにこだわらず、むしろ手間かけて実写で見せたかったのは、例えばあの道元が草むしりや畑仕事に精を出すシーンだったのでしょう。台詞にしても、無理に当時の言葉遣いを再現しようとはせず、「あなたはこれこれですね」「はい」といった現代語で違和感ありません。
その4、役者がフレッシュ。草創期はこうして若々しく、多少の無茶も押し通してしまうパワーがみなぎっていたのだろうと思わせます。現代に例えるなら、ベンチャー企業の奮闘記みたいな。比叡山との関係などを考え合わせればたいへんなリスクを負っていたはず。とはいっても僧侶役たちにはガツガツしたところがなく、皆どことなく柔らかい。すでに曹洞宗らしいというか。
その5、伝統を活写。タイトルが示す通り、真の主役は禅。坐禅堂で隣位問訊して単に上がり足を組むまでを俯瞰のロングショットで見せたり、経行や托鉢、食器を包む布を解く様子をじっくり捉えるなどして、禅の心をあますところなく示します。とりわけ印象的なのがラストにつながる法界定印の美しさですね。食事の大切さもよく伝えており、典座という役割の強調、さらには「お米が足りません」「ならば粥にするがよかろう…」という挿話を受けて、田植えと実りの風景がまぶしい。嗣法のシーンも印象深く、師匠から弟子へという流れが続いてきた重みを感じます。
――と、まだまだ賞賛したいのですが、長くなるのでとりあえずここまで。ぜひ見てね。