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 長谷川等伯展を見た

先日、東京国立博物館で特別展「長谷川等伯」を見ました。没後400年を記念して代表作80点を集めた回顧展。なんでもござれの器用さにただ驚くばかり。
大作のいくつかはどうも既視感があります。いや「感」じゃなくて確かに、近年の同館特別展や出光美術館企画展で既視。
そんななか、禅僧を描いた諸作品は初見。達磨、臨済・徳山、南泉(これは図版で見たことがあったものの、等伯筆とは知りませんでした)、蜆子・猪頭(これ今回いちばんのお気に入り)そして寒山・拾得など。等伯日蓮宗の信徒だったそうですから、宗旨から言えばこれらはあくまで「仕事」。おそらく定型の見本があったにせよ、禅宗らしい味わいを表現できてしまうのも才能です。
通して見て意外に思ったのは、どの作品も画面の余白が少ないこと。智積院の金碧画にしても、晩年の水墨屏風にしても、めいっぱい描き込んであります。余白ならば「松林図屏風」にあるじゃないかと言われそうですが、同作品の前室に展示された「檜原図屏風」では檜林の余白に和歌が大書されており、これを見てしまうと「松林図」も実は余白に和歌を書き入れて完成だったのではないかと思ってしまったわけです。こんな邪念をもって「松林図」と向き合ったのは初めて。
小品まですべて見ごたえがあるため、かえって国宝3点が冴えないのが難といえば難。とくに楓図は、あの横向きの位置ではかわいそう。松林図はもったいぶりすぎて継子扱いです。まあ、これら傑作がなりをひそめてくれたおかげで、他が輝けるという面もあるのかもしれません。