仏報ウォッチリスト

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 飛鳥3館の特別展

飛鳥で3つの特別展を見てきました。飛鳥・藤原ミュージアムネットワークという新たなプロジェクトの連携企画です。
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奈良県立橿原考古学研究所付属博物館「仏教伝来」は、大和各地での仏教受容を瓦などの発掘物で検証。地域別に、なじみがある飛鳥、斑鳩のほか、石上・和爾、片岡・広瀬、桜井、葛城の計6カ所に分類。今や建物はおろか伝承さえあいまいな寺院がいくつも存在したことを教えてくれます。
中盤では塔や供養具など、実際の信仰を物語る品々を並べます。せん仏というのはなぜすたれたのだろうかなど考えさせられました。最終章では寺院の取り組みとして今に至る東大寺社会福祉活動を紹介。考古学とは決して埋蔵品を発掘しているだけではないという気概が伝わってきて好感を持ちました。
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飛鳥資料館は「飛鳥遺珍 のこされた至宝たち」。飛鳥地方に由来して現在は日本各地で保存されている文化財を呼び戻した展覧会。ふだんの展示に特別の品々をまぜてあるらしいのですが、常設自体になじみがない者には見どころが掴みにくく、とにかく全体を等しく見るように努めます。
印象に残ったのは木製品の数々でした。石や陶器が後世に残るのは察しがついても、1400年も前の木簡や井戸枠が眼前にあることには驚きます。そういえば同館常設展示の目玉も山田寺回廊の木材でした。
橘寺から東博法隆寺館所蔵となった金銅像の説明に「里帰り」という言葉があって、地元の歓迎ぶりが伝わってくるようでした。
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奈良県立万葉文化館「大飛鳥展」、これが意外な掘り出し物でした。仏教専門の研究施設でないことがかえって良い方に作用したと言いましょうか。周辺の寺宝が気前良く貸し出される一方で、搬入が困難なものは複製や写真を掲げる、その割り切り方が潔いのです。
出陳品は現在の所蔵者にかかわらず飛鳥時代の遺品であるか、あるいは時代はともかく飛鳥地域の宝物であるかのいずれか、というフレキシブルな視点で選ばれています。
現物で目を引くのは法隆寺夢違観音、野中寺弥勒菩薩法隆寺金堂壁画、威奈大村骨蔵器など。複製は中宮寺菩薩、飛鳥大仏頭部、山田寺仏頭ほか、高松塚とキトラ古墳の壁画は写真パネル。本物だろうと偽物だろうと、これらが一堂に会していることに意義があります。
同館の中西進館長が図録に寄稿した文章に万葉ロマンの情感があふれており、文中にある「飛鳥の起爆力」という表現がまことに示唆的です。展示の序章を「異文化への憧憬」としてペルシャの皿などを並べているのも、飛鳥文化の特徴を的確に表現していると思います。
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3館を巡る途中に雷丘や甘樫丘のそばを歩き、飛鳥坐神社や飛鳥寺を参拝。見ごたえのあった特別展ともあいまって、飛鳥のおおらかな空気を満喫しました。