仏報ウォッチリスト

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 お能「巴」

国立能楽堂お能「巴(ともえ)」を見ました。
源義仲木曽義仲)に付き従った女武者・巴御前の霊が語る義仲の最期。戦場で息も絶え絶えな義仲が、共に果てようとする巴を制して我が遺品を故郷に届けよと頼む。奮起した巴がなぎなたで敵に立ち向かう場面が見どころです。
修羅物で女性をシテとする現行唯一の曲。乳兄弟の今井四郎兼平が最期を看取ったと語る『平家物語』の説によらず、異本『源平盛衰記』を下敷きにしたオリジナルストーリー。どうしてこういう異伝が創作されたのか。なぜ巴は成仏できずこうして現れたのか。
公演パンフレットの解説(村上湛、『国立能楽堂』No.341)によると、〈源氏正統の象徴・征夷大将軍に任ぜられながら、同族に攻められ、氷の泥田にはまって惨死した義仲は、当然、御霊となるべき存在でした。こうした恐ろしい死霊を慰めるには、死者にゆかり深い女性が死後も巫女として近侍するのが一番。……「巴」は、正伝とは違う(からこそ興味を引く)異伝をあえて語りなす独創的な口承芸能のありようと、非業の戦死者の霊魂を神として鎮撫する民俗と、この二つの背景に支えられた、特殊な軍記ドラマと思われます。〉とのことです。
この作品は作者不詳で、室町期の謡本が存在しないため、一連の『謡曲集』に載っていません。パンフレットから仏教的な詞章を下に抜粋します。

 古(いにし)への、これこそ君よ名は今も、これこそ君よ名は今も、有明の月の義仲の、仏と現じ神となり、世を守り給へる誓ひぞ、有難かりける、旅人も一樹の蔭、他生の縁と思し召し、この松が根に旅居し、夜もすがら経を読誦して、五衰を慰め給ふべし、有難き値遇かな、げに有難き値遇かな。


 罪も報いも因果の苦しみ、今は浮かまん御法(みのり)の功力(くりき)に、草木国土も成仏なれば、いはんや生(しょう)ある直道(じきどう)の弔ひかれこれいづれも頼もしや頼もしや、あら有難や。