仏報ウォッチリスト

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 高野山開創と丹生都比売神社

和歌山県立博物館で特別展「高野山開創と丹生都比売神社 ―大師と聖地を結ぶ神々―」を見ました。
高野山の歴史は複雑で、仏教の知識だけではうまく掴めないところがあります。そうした地域信仰の伝承を地元史料で明快に紐解いてゆく有難い企画です。
弘法大師空海の『性霊集』によれば、高野山の地は空海嵯峨天皇にお願いして賜ったことになっています。事実としてはそうなのでしょう。一方、伝承としては丹生明神が空海に土地を譲ったとまことしやかに語られます(後世に空海に仮託された『御遺告』等)。それはどこから出た話なのかを、歴史資料をもとに検証していくのが展示の前半です。
〈結論を先取りすれば、高野山開創に当たって空海は、その山麓に勢力を有した丹生祝氏への支援要請を行っており、そうした関係を結ぶ中で丹生祝氏によって祭祀される丹生都比売神の位置付けが重要となって、のちには鎮守神化していったという展開が想定される〉(当展図録所収の論考から)
続いて、三谷薬師堂の神像3体と個人蔵の銅製神像2体を並べ、それらが鋳造像とその木型の関係にあることを示します。さらに図録解説ではその銅像は丹生都比売神社に祀られていたであろうことを過去の調査記録から示唆します。
次に丹生高野四社明神のうち、第一殿丹生明神・第二殿高野明神ときて、なぜ第三殿気比明神・第四殿厳島明神なのかを確かめてゆきます。まだ検討の余地があるとしながら、気比は途中まで蟻通神であったこと、従来は丹生高野四社明神が平家物語に挿入されたといわれてきたが、成立の過程を見ると逆に平家物語のこの記述が四神の形成に影響しているのではないか、と指摘します。
そうした新たな知見を文字で表すのみならず、3Dで見せてくれるが展覧会の醍醐味です。導入で弘法大師空海の思想と信仰を概説し、最終章で丹生都比売神社の歴史を紹介。神仏分離で同社から移された弘法大師像こそが冒頭に置かれた彫像であるという具合に、展示が循環構造になっているのもミソ。別室では「高野山と有田川流域の仏教文化」の特集展示も。文化財が地域の歴史を如実に物語る重厚な企画でした。
http://www.hakubutu.wakayama-c.ed.jp/kouya_niutuhime/frameset.htm