仏報ウォッチリスト

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 「平安古経展」

奈良国立博物館で「まぼろしの久能寺経に出会う 平安古経展」を見ました。平安と限定することで、経典のみならずこの時代の仏教の特徴も浮かび上がってきます。
展示順に、数少ない平安初期の写経、大般若経一切経、埋納経、瓦経、銅板経、版経、金字経、装飾経、扇面経、手鑑、そして別室に久能寺経。ひたすら経典のみに徹したのはあっぱれ。それだけで構成できるほど質が高い作品であるという証左でもあります。行きつ戻りつしてなかなか立ち去りがたい会場でした。
国家護持のために写経をしていた前時代から、個人の信仰を背景に経典が作られるようになってきたのが平安時代。とはいえ発願できるのは一部の富裕な貴族だけ、という事情で、金に糸目をつけない手法が行き着くところまで行った、と言えましょうか。
それにしても、会場の説明はいささかそっけなく感じます。背景をある程度わかっている者でないと取りつく島がない。一般向けの展覧会ならば、せめてどこに注目すれば良いかワンポイントの助言がほしいところです。おかげで空いていてゆっくり見られましたのもたしかですが。
目を奪われたのは、奈良博所蔵の紫紙金字経、近年の制作とも見紛う保存状態の良さです。福島・龍興寺蔵の一字蓮台法華経は、蓮の花もすべて色を違えた手描きで気が遠くなりそう。竹生島経は何度見ても見あきない端正な書体。
久能寺経は、裏地の装飾に息を呑みます。表側もさすがの完成度ながら、これでもかというくらいに飾りすぎて、それに負けじと墨書きした太めの経文がやや暑苦しく感じます。タイトルで久能寺経を「まぼろしの」と冠するのは、今回出陳の作品(前後期計4点)がみな個人蔵につき、一堂に会する機会など望めなかった企画者側のため息のようにも思えて、そのご苦労がおのずと偲ばれました。
http://www.narahaku.go.jp/exhibition/2015toku/heiankokyou/heiankokyou_index.html