国立能楽堂でお能「田村(たむら)」を見ました。
主人公は坂上田村麻呂。舞台は桜咲く春の夜の清水寺。前半では田村麻呂が創建に関わったとされる清水寺の来歴が語られ、後半は田村麻呂による鈴鹿の鬼神征伐。
しっとりした前半から一転して後半の疾走が圧巻。分類では修羅能に属する作品ですが、武人としての姿にいささかの屈託もなく、「勝修羅(かちしゅら)」という特殊な位置付けなのだとか。戦勝は千手観音の仏力によるというわけで、同寺の霊験が補強されます。
田村麻呂の菩提を弔うために旅僧は法華経を読みます。詞章には、
夜もすがら
散るや桜の蔭にねて
花も妙(たえ)なる法(のり)の道
迷はぬ月の夜と共に
かのおん経を読誦する
「花も妙なる法の道」というのは妙法蓮華(=花)経のこと。「迷わぬ月」とは、闇ならば迷ってしまうが、迷うことのない明るい月夜なので、の意。謡曲の奥深さにうなります。ほかにも冒頭には、
大慈大悲の春の花
十悪の里に芳(こうば)しく
三十三身(じん)の秋の月
五濁(じょく)の水に影清し
というあざやかな台詞がありました。
ちなみに、清水寺(公式ページ)によれば、今年は「坂上田村麻呂公一千二百年御遠忌」で、同寺開山堂(=田村堂)が3/1から5/31までご開張だそうです。
追記;
国立能楽堂発行の今月(09年1月)のパンフレットには、巻頭に興福寺貫首・多川俊映師の「能は祈りだ」と題する随筆が載っています。見巧者が仏教とお能とのつながりをズバリと示した明快な文章で、双方に興味がある人にとっては必読です。