仏報ウォッチリスト

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 「平泉」展を見た

世田谷美術館で特別展「平泉 みちのくの浄土」(4/19まで)を見ました。
入場して冒頭に掲げてあるのが「中尊寺建立供養願文」。これぞ平泉を貫く祈りであり、当展最大のメッセージであります。文面は難しいけど、どうぞ見逃さないように。
進むとすぐに、目玉である「金色堂西北壇上諸仏」の部屋。像の配置は堂内と同じだそうで、金色のお姿が紺の背景に映えます(この色合いは、のちに出てくる「紺紙金銀字一切経」に倣ったもの。なかなか洒落ています)。
次の広間が東北の木彫仏。平泉の全盛時ですから平安後期の作に集中。大ぶりでふくよか。腕や指先を欠損したトルソーが多数。成島毘沙門堂の「伝吉祥天立像」はふつうに腕2本、なのに原型は18本の腕があったそうで、ちょっと想像がつきません。
トルソーの圧巻は松川二十五菩薩堂の「二十五菩薩像及び飛天像残欠」10躯。出っ張りを失い失いして、太ももと膝しかない像もある。その木片を見て、なぜこれが太ももと膝に見えるのだろうとしばし考えこんでしまいました。
次に興味深かったのは、中尊寺経とも言われる経典類です。金剛峯寺蔵「紺紙金銀字一切経」はしばしば目にする機会があるものの、全部で約5300巻あるという中から今回チョイスした基準が面白い。その一つは、紙自体の出どころが分かるもの。この紺の地色は藍染めです。紙が貴重だった時代ですから、中には反故紙も使われていて、特殊撮影すると元々書かれていた仮名文字などが現れたそうです。とはいえ展示品にいくら目を凝らしても塗りつぶされて何も見えないのですが。
この写経でもう一つの見どころが、各巻の経文が始まる前に添えられた見返し絵。当時の絵師20人が分担したその絵には「うまい/へた」が歴然としてあるらしく、今回はうまいものばかり選び抜いたもよう。見返し絵は元来、左右対称の説法図が主流ですが、展示品の中には非対称の「見返り如来図」なんてのもあります。中尊寺大長寿院蔵「紺紙金字一切経」の見返し絵は説法図ではなく経意絵で、地獄・餓鬼界や、不殺生・放生の描写もありました。
説明パネルも充実して、平泉の全体像がよく分かる構成。ただし階上へ行くともう階下へ戻れないのでご注意を。
なお、蛇足ながら、美術館がある砧公園はまもなく桜が満開になります。花と宝物の両方を愛でるか、そういう混む時期はあえて避けるかはお好み次第。