仏報ウォッチリスト

ここは仏教の最新情報、略して《仏報》の材料をとりあえず放りこんでおく倉庫です。

 大仏の手の上で

一つ前の書き込みがどうもアレなので、お口直しに。

「なんとなくの旅はつづく」/津村記久子


(略)東大寺を出ると、すぐに近鉄奈良の方面に引き返し、「なら奈良館」に向かった。そこに向かう途中に、Yちゃんから「なら奈良館」に行きたがった理由をきいた。大仏の手の実物大レプリカがあるので、それが見たいのだという。いや、大仏なら、大仏の手ならさっき見たではないか、とわたしは思うのだが、どうやらその大きさを間近で見ることが大事ならしい。(略)
 はたして、大仏の手は大きかった。あまりに大きかったので、Yちゃんとわたしは誘惑に負けて、その上に寝転んでしまった。今もときどきその時の気持ちについて思い出す。安堵とは少し違った、穏やかな諦めのような気分に覆われたのだった。もっといろいろなところに大仏の手のレプリカを置けば、わりといらいらせずに人は暮らせるのではないかと思う。(略)


 ――講談社PR誌『本』2009年4月号


なんともすてきな文章です。