仏報ウォッチリスト

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 仏像を語るブーム

下記はいずれも朝日新聞東京本社発行の昨日と今日の紙面から。引用だけでコメントなし。〔……〕は中略個所。

……阿修羅像をめぐる三十分間ほどで教育された私は、自由に動いたり立ちどまったりできる十大弟子像のコーナーに戻りました。……私は若い自分が、これら青年、壮年、老年の僧の、知的で静かな悲しみの表情にいかに圧倒されたかを思いだしました。……その群像をめぐっているうち、いや自分はあれから、このように知的で静かな面立ちの人たちに実際に幾人にもお会いできた、そしてそれらの人たちは、こぞって老年の悲しみも示していられた、という遥かなような思いに襲われていたのでした。
  ――大江健三郎『定義集』「知的で静かな悲しみの表現」から(5/19付朝刊19面)

……「たくさんの仏像を作って、直して、守ってきた日本は、ずっと仏像ブームなんです」と話すのは仏像ナビゲーターとして活躍する「仏像ガール」こと廣瀬郁実さん……「仏像の素晴らしさは、人の形をしているところ。目があり、耳がある。だから『会える』んです。話しかけて、耳を澄ませてみてください」……
  ――『beトラベル』「鎌倉仏像さんぽ」から(5/19付夕刊3面)

……交合する仏の姿はなまめかしい。男女がひとつになることで悟りが開けるという。性の快楽という世俗の最たるものと、神聖な悟りとの融合。私たち日本人にはなじみが薄いが、これもまた仏。仏教という世界宗教多様性と奥深さを知る。
  ――『水曜アート』「カーラチャクラ父母仏立像」から(5/20付夕刊2面)

……これほどまでに人の心を捉えて放さない仏像の魅力は、いったい何に由来するのだろうか。……仏師の卓越した技量によるものか、それとも仏師の深い信仰心の故なのか。……遠い歴史の思い出を色濃く残す古都の雰囲気も、そこには働いていたに違いない。つまり作者の腕と心、それに環境が芸術の力の源泉なのである。……
  ――高階秀爾『美の季想』「古都の仏たち」から(5/20付夕刊3面)

……興福寺の阿修羅には、これまで何度となくお目にかかったが、今回ほど身のすくむような感動に襲われたのは初めてであった。部屋の高い天井からの照明には、一条の赤みがかった光景が加わり、まるで夕日の残照のように、えもいわれぬ静けさで彫像を包んだ。
 見終わって、つくづくこの国に生まれた幸福感に浸った。まさに奇跡の仏像であった。帰りのエレベーターに乗ろうとして、あまりの去りがたい思いを抑えがたく、妻に車椅子を押してもらい、もう一度眼底に焼き付けた。……
  ――多田富雄『私の収穫』〔1〕「平和の神」から(5/20付夕刊9面)