仏報ウォッチリスト

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 放下僧を見た

国立能楽堂で、お能「放下僧(ほうかぞう)」を見ました。
異色の作品。手元にある『謡曲集』3種では扱っていません。こんな時に頼りになるのが『マンガ能百番』。ありました、さすが。同書では本作品が〈世阿弥とは別系統の能を作って人気を得ていた宮増(みやます)の作らしい〉としています。どうりで。
誰も面をつけないし、現代から時制が動かないのも異色。そもそもタイトルからしてわかりにくい。放下とは曲芸や歌舞を見せる中世の大道芸だそうで、その僧侶版だから披露するのは禅問答。連発する仏教用語に聴衆が酔うわけです。
で、主人公の目的というのが、仇討ちなんですね。仏教的には人を恨んではいけないので仇討ちなどもってのほかです。が、仇に出会うため芸で人寄せをする、その芸を見せるのが本作の眼目ということで、まあ許してやってください。
公演パンフレットの解説によると、ラストに置かれた小歌が〈長閑な春の都風俗を綴ると同時に、「揉まれて廻り巡るもの尽くし」……これは仏教で言う輪廻の理の象徴であり、仇に巡り逢って望みを達する予告となっている点、劇的効果に直結した優れた構成〉だそうです。でも、やっぱり仇討ちを肯定しちゃいけませんね。
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追記。このお能の前に狂言「磁石」が演じられました。当作品の中で脇役が「磁石山に住む磁石の精」を名乗ります。同解説によれば、なんとこの「磁石山(じしゃくせん)」は「耆闍崛山(ぎしゃくっせん)」(=霊鷲山)のモジリなのだそうです。わかんないって、それ。