仏報ウォッチリスト

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 「朝長」を見た

先日、国立能楽堂お能『朝長(ともなが)』を見ました。
源朝長は義朝の次男で、戦で負傷し、のちに自害、その果てた地でゆかりの人たちが観音懺法で弔ったところ、本人の霊が現れて無念を語ります。「『平治物語』によれば、朝長は優しく心こまやかな人柄で、戦においては弱く、父義朝に認められぬ存在であった」(同公演パンフレット解説より)。なんだか薄幸な人物で、ちょっと草食系。
〈それ朝(あした)に紅顔あつて、世路(せいろ)に誇ると言へども、夕べには白骨となつて郊原(こうげん)に、朽ちぬ。〉
〈一切の男子(なんし)をば、生々(しょうじょう)の父と頼み、万(よろず)の女人を生々の母と思へとは、今身の上に知られたり。〉
手元の資料によれば、前者の出典は『和漢朗詠集』「無常」、後者は『梵網経』10より。
〈げに頼むべき一乗の、功力(くりき)ながらになどされば、未だ瞋恚(しんに)の甲冑の、御有様ぞ傷はしき。〉
ここは省略の連続でわかりにくいのですが、『新潮日本古典集成』の訳文をつなげると、「おっしゃる通り頼もしい一乗妙典(法華経)の功力がありながら、どうしてまだ瞋恚をあらわした甲冑姿のままなのか、痛わしいことよ」となります。どうにもカタルシスには至らぬ重苦しい演目です。