仏報ウォッチリスト

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 「烏頭」を見た

国立能楽堂お能「烏頭」(うとう、=善知鳥)を見ました。生業で殺生を繰り返した猟師が死後に地獄で苦しんでいる。僧を介して執り行われる回向、妻子の前に現れる猟師の亡霊……。
仏教の戒律で殺生は大罪。とはいえ物語がたんに職業上の裁きにとどまらないのは、主人公がさらに深い罪を犯していたからです。「うとう」は日本の北部に棲む海鳥の名。母鳥が「うとう」と呼びかけると子が「やすかた」と応じる習性があるといいます。猟師はこれを悪用し、おびきよせた子鳥ばかりを捕まえたというのです。この悪業の報いで、亡霊が実子に歩み寄ろうとしても近づけないという場面は胸を打ちます。
前半は立山地獄、後半は津軽半島の外の浜という設定。資料に季節は夏(4月)とありますが、どうにも寒々しく凄まじい情景。子を奪われた母鳥が空から降らす血の涙を猟師は浴びたという、その証拠の蓑笠が舞台前方に置かれているのが印象的。哀願する主人公に救いはあるのか、そこまで語られずに幕切れ。ずしりと重い演目です。