仏報ウォッチリスト

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 「足立の仏像」

足立区立郷土博物館で、区制80周年記念特別展「足立の仏像 ほとけがつなぐ足立の歴史」を見ました。
同館が足立区仏教会の協力のもとで行った仏教遺産調査の発表会。東京の下町で日々拝まれてきた仏さまが一堂に会しました。国宝のような目玉があるわけではなく、江戸時代制作の像を中心とする展示です。リスト上は計34件で、うち区登録の文化財が5点、都指定有形文化財の複製品が1点、前後期で入れ替えあり。
入ってすぐ、吹き抜けのホールで宣伝チラシに使われている美男の常善院大日如来坐像と美女の吉祥院弁才天坐像がお出迎え。企画展示室と2階ギャラリーをあわせ、いちばん古いのが平安時代の西光寺如来立像、いちばん大きいのが201センチの常善院阿弥陀如来坐像(いずれも前期展示)。ほかに千住の地名の由来になった千手観音立像や、一遍上人・他阿上人像、そして清凉寺式釈迦像まで。尊格に偏りがなくてバラエティに富んでいるということは、強固な地域信仰が支配していたわけではなく、人も仏像も流入してきたという証しでしょう。
ほかに目を引いたのが、着衣に法華経がびっしり書写された真国寺夢想普賢菩薩立像、自然木の前面に浮き彫りした西光院聖観音菩薩立像、地場産業が生んだ瓦製弘法大師坐像とセルドイド製恵比寿・大黒天像など。
会場には像の解説とともに所蔵する寺の説明パネルも掲げられています。中年の女性3人グループが文章を読みながら「これどこ?」「ほら、あの何々がある通りの角よ」などとキャピキャピはしゃいでいて、これは地元にとって意義ある展覧会だなあと実感しました。
A5判220頁の図録(600円)が展示物のみならず調査結果を網羅した充実の内容です(どうでもいいけど縦組みなのに右頁が奇数ノンブルなのはご愛嬌)。各論として掲載されている「江戸東郊農村の造像と修理」という文章で、銘文から調達価格や修復依頼の様子を検証しています。真頂院千手観音像の1852年の修復費が現代の金額に換算して22万5000円、出資者17人で割ると1人あたり1万3235円の負担だったそうです。
この地域では江戸時代前期に新田開発が盛んになり、暮らしに密着した寺院が建立されたのに応じて仏像の需要が大量に発生した、と同書にあります。すでに田んぼは跡形もありませんが、こうして仏像は残っています。地域史を語らせたら仏像の右に出るものはいないと改めて思いました。