神奈川県立金沢文庫で「運慶 中世密教と鎌倉幕府」を見ました。運慶作の仏像計7点(一部入れ替えあり)が一堂に会する大型企画。
作者を特定するのが難しい分野において、関連史料でその証拠をきっちり示してゆく構成が小気味よいです。たとえ仏像がすべてパネル展示だったとしても展覧会として成り立ちそうなくらい。
展示は真言宗の東寺講堂の写真から始まります。金沢文庫が保管する鎌倉時代の古文書「称名寺聖教」によると、運慶が一門の棟梁になって最初の大仕事として東寺講堂諸像の修理をした際、像内部から仏舎利を発見したことを伝えています。この奇瑞が一挙に運慶の名声を高めたと同時に、ほかの作品とも繋がりが見えてきます。図録の解説などを要約すれば、
・東寺講堂の中尊は大日如来。今回展示される3体の大日如来坐像はその影響があったのではないか(造像は講堂修理時期より遡るものの、以前から規範の対象としていた可能性も)。
・円成寺は当時、覚鑁流の真言宗による浄土信仰の寺院。
・光得寺大日如来の厨子や台座は東寺講堂大日如来の模刻か。
・滝山寺帝釈天立像は東寺講堂帝釈天像と近しい。
これらが、サブタイトルにある「中世密教」の影響。
もう一つの「鎌倉幕府」との密接な関係も明快。慶派の台頭にはそれまで平氏政権と強く結びついていた京都の仏師(院派・円派)を源氏の鎌倉幕府が退けたからという説があり、展示では仏像の納入品や各種史料で、発願者である源氏や北条氏の名を示してゆきます。なるほど時代が味方するってこういうことでしょうか。
ちなみに、説明パネル右上にある「運慶」のサインは、大威徳明王像に納入されていた経文の奥書にある自署。この紙片のごわごわとした折れ跡を見て、小さく畳んでゆくときに込めた祈りの思いを妙にリアルに感じました。
以上、決して広くない室内を行きつ戻りつ、図録を買いに走ったりもしながら、かれこれ1時間半ほどいたでしょうか。あれ、ここまで仏像のことを何も書いていませんね。まあその魅力は一目瞭然ですから駄文で汚すまでもないか。展示品は意外に余裕をもってガラスケース内に納められており、とても贅沢な空間でした。