仏報ウォッチリスト

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 自然居士を見た

国立能楽堂興福寺勧進能「自然居士(じねんこじ)」を見ました。自然居士は実在した中世の説経芸能者で、南禅寺大明国師の弟子だったといいます。〈放下の禅師とも称された俗聖の宗教・芸能行為は、庶民の渇望と既成宗派の顰蹙排斥を受けつつ、その時代に流行していた〉(新潮日本古典集成『謡曲集・中』解題)。
雲居寺で説法する自然居士に、少女が着物を寄進します。実は少女は人買いに追われる身。さらわれていくのを見かねて自然居士が追いかけ、自身の芸を見せるのと引き換えに子を取り戻す。その正義感、侠気にしびれます。
変化に富んだ展開ながらとても分かりやすい筋。しかもハッピーエンド。分かりやすかったのは始まる前の西野春雄先生の解説が要を得ていたこともあるでしょう。いや、それだけ役者が巧かったからかも。
たとえば「中ノ舞」。いつもなら、ああお決まりの舞の時間が始まったなくらいにしか思わないのに、今回は舞う目的がはっきり伝わってきている。言うまでもなく少女を助けるため。しかも相手を喜ばせなければならないのだから、心は必死で物腰はあくまで柔らかく。
狂言ながらも法(のり)の道、今は菩提の岸に寄せ来る」という詞章が結び近くの地謡に出てきます。出典は和漢朗詠集だと註釈にありまして、自然居士の立場、ひいては能という芸事を象徴するような言葉です。