仏報ウォッチリスト

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 「清経」を見た

国立能楽堂お能「清経(きよつね)」を見ました。平清経は戦地で自死、享年二十一。届けられた遺髪を妻は拒絶。妻の夢の中に夫が現れて、お互い恨み言の応酬。
生者と死者が会話をしています。宗教者を介さないのが本作の特徴。夫婦という特別な関係だからでしょうか。それだけに内容が生々しい。いわゆる痴話喧嘩です。
夫は、敗北して敵に追われ、神にまで見放されて絶望した末の決断だと言い訳。この苦しみが他人に分かるもんかと言わんばかり。妻は、遺品を突き返した理由を、見るたびに心が乱れるからだと説明。その背景には、討ち死にや病死ならまだしも、私を置いて自ら死ぬとは、という恨みが沸き立っています。
夢の中とはいえこうして再会し、言いたいことを言いあって、いちおう納得したと言っていいのでしょうか。清経は〈修羅道に苦しむ今の姿を見せますが、入水の際に十念を唱えた功徳で仏果を得た〉(国立能楽堂パンフあらすじ)といいます。救われたんですね。むすびの地謡
「これまでなりやまことは最期の十念乱れぬ御法(みのり)の舟に、頼みしままに疑ひもなく、げにも心は清経が、げにも心は清経が、仏果を得しこそありがたけれ」
この直前に「愛欲貪恚痴通患道場」という言葉があります。前半は伝統的にアイヨクトノイチ、現在ではトン二チと発音するのが通例だといいます。後半は注釈を見ても意味不明で、「痛患闘諍」と当てるべきかという説もあるそうです。