仏報ウォッチリスト

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 「ほとけのすがた」

神奈川県立金沢文庫で大橋新太郎生誕150年記念企画展「ほとけのすがた ―金沢文庫コレクション1―」を見ました。
大橋新太郎は博文館を創業した明治の実業家で、別荘のそばの称名寺の復興と県立金沢文庫の設立に尽力した人。記念展の第1弾は、仏像・仏画と、儀軌などの古文書類を展示。清凉寺釈迦如来などおなじみの仏像から初見の作品も多数。ふだんテーマの明確な企画が多いので、これまでテーマに合致せず日の目を見なかった所蔵品を蔵出しという感じでしょうか。
仏像の特徴や真言を書き記した巻物も、「ほとけのすがた」に注目すると、なんとも愛らしい絵が多いことに気付きます。
西国三十三観音像は、長谷寺粉河寺……と各寺の観音像を模した30センチほどの群像。お顔や光背などは同一規格で、ポーズは清水寺千手観音が頭上でも合掌するなどオリジナルの形式を継承。なんだか分冊百科か何かで集めるシリーズのフィギュアみたいにも見えます。
最も印象に残ったのは、伝説を伴う「長浜観音」。解説によれば、長浜観音堂の聖観音像は応長元年(1311)の津波で流され、貞和3年(1347)に漁師の網で引き上げられました。人々の身代わりになって海中に沈んでいたと受けとめられ、このご利益を伝えるため昭和10年に大橋新太郎が金沢山の山頂に八角堂を建ててこの像を安置しました。展示では同像と、和讃を記した冊子と、会場外に八角堂の落慶法要の写真を陳列しています。
この聖観音立像は鎌倉時代の彩色を施さない檀像で「やや形式化した部分もあり在地仏師の作例か」(パネル解説)とのこと。右手人差し指が欠けているものの、頭部の冠帯などは無傷で、とても被災したようには思えないのですが、何らかそれに類する出来事はあったのかもしれません。
「柴村長浜観世音菩薩和讃」から引用します。
 ……老若男女磯に出て
   洪波(つなみ)の時言い出し
   応長より貞和まで
   三十七年海中に
   沈み給うは身代わりよ
   実に有難や観世音……